2015/05/26
囲碁, 松田浩和インストラクター
私は割合単調な日々を送っているので事件というほどの事件はあまり
身に覚えがありません。盤上のことに話を移せば、そこには事件が
たくさんありますが、それではつまらない感じもあります。
今回のテーマは難しい。
悩んだ末に今回紹介するのは結局碁の話。学生時代の囲碁大会での
出来事です。
関東の大学囲碁部に所属している人間にとって最大のイベントは春秋
2回開催される「関東リーグ」です。(正式な名称はもっと長いですが
今回ははしょって)5人制の団体戦で、一部8チームの総当りのリーグ戦
で行います。成績によって各部2チームが昇降級します。大学囲碁界は
全国8ブロックに分かれて運営されていて、関東リーグはその1ブロック
の予選に過ぎませんが、大学が多い地区だけに白熱した戦いが繰り広げ
られます。私の学生時代は一番競技人口が減少した時代で3部までしか
ありませんでしたが、最盛期は8部まで、現在でも4部まであります。
学生棋戦は学生自身が運営していて、関東リーグの場合は盤石なども
各大学で用意します。1チーム5人に対しての碁盤、碁石、対局時計を
3セットの用意が義務付けられていました。双方が3セット用意して
あれば道具が足りなくなることはない理屈です。
いつの対局だったか記憶があいまいですが、その関東リーグでの話です。
私は3将か4将で出場していました。相手はどこの大学だったか。
碁の内容は覚えていませんが、たぶん私の苦戦で先に時間がなくなり
ました。当時の関東リーグは持ち時間が60分、切れたら30秒の秒読みで
対局していました。60分を使い果たした私は一手を30秒以内に打たない
と時間切れ負けになります。
ここで問題が生じました。私の対局で使っていたのは相手方が用意した
道具だったのですが、手合い時計がアナログ式で秒読み機能がついて
いませんでした。今は秒読み機能の付いたデジタル式の対局時計が
一般化しましたが、当時はこういうことはよくありました。
こういう場合は人をつけて秒を読みます。正式には双方の大学から
一人ずつ秒読み係を出して、相手方の選手の秒を読むというのが
ルールだったと記憶しています。
ただ当時は、学生の囲碁人口が最も少なかった時期で、記録係や秒読み
係を出せない大学も多いのが現状でした。そのときも双方とも余剰人員
がいなくて、たまたま近くにいた他大学の手空きの部員に急遽秒読みを
お願いして対局続行となりました。幸い秒針つきの腕時計をしていたの
で30秒の秒読みは可能です。
苦しい碁ですが、団体戦なので簡単には諦めません。時間を目一杯
使って少しでも粘ろうとします。打つ手が決まっていましたが、
その先を読んだり、目算をしたり、やるべきことはいろいろあります。
かすかに違和感を覚えましたが、余裕のない状況ですし、集中すべき
局面も目の前にあります。私はぎりぎりまで読もうと読みに集中しま
した。そのときです。
『30秒!』
彼は高らかに宣言しました。しまった時間切れ。しかし何かがおかしい。
第一声が30秒ってそれはない・・・それでは秒「読み」ではないです。
一瞬虚をつかれた私ですが、事態を把握すると思わずかっとして秒読み
をしてくれた彼にかなり激しいことを行った記憶があります。
真剣勝負のさなかで気が立っていたというのもあると思います。
さすがに対局相手も対局続行を同意してくれて反則負けにはなりません
でしたが、あの瞬間の衝撃は今でも忘れられません。
碁は確か負けました。
局後に聞くと、60秒の秒読みと勘違いしてしまったようです。
今考えると秒読みを突然頼まれた方もいい迷惑で、
結構緊張したでしょう。そもそも時計がアナログ式で、しかもお互いに
秒を読む人手が無いことはわかっていたので、そのあたりをどうするか
対局前に確認しておかなかったのがおかしいのです。杜撰なものです。
あのとき声を荒げてしまったことは今では後悔しています。とんだ
ハプニングと当時は思いましたが、要するに準備不足だったですね。