根本席亭ブログ 500人の笑顔を支える、ネット碁席亭日記 囲碁の上達方法やイベント情報など、日々の出来事を発信していきます。


ーあっ絵がかわりましたね。

―おっ気づいたか。最近こういうのに興味がない人も多いんだよ。



​K
さんは嬉しそうだった。



溜池山王にある小さなフレンチのお店にKさんの絵が飾ってある。

サインを見ずとも作風でわかるようになったので、すぐ気がついた。




Kさんは同じ会社の囲碁部OBで現在79歳。知り合って20年がすぎた。

父より年上ながら頼りがいのある兄貴のような存在だ。

年に3,4回、ランチに誘って頂いている。




―重いから3冊までだな。



30年以上前の棋書『現代囲碁大系』全48巻を

これから「手渡し」でゆずりうける予定だ。

新品で全巻もっている愛棋家はなかなかいない。




―処分しないでずっと持っていてもらえそうな人はほかにいないんだよ。

―ずっと大事にします。残り44冊ですね。

​ 重いので無理せず少しずつでお願いします。




いつか僕の本棚に全巻揃う姿を見るのも楽しみだが、

それより僕はこのランチの時間が大好きだ。

あと20回は元気なKさんと会話を楽しみたい。




「少しずつ」に隠された心の声は気づかれなかったようだ。



20180117233534



今日は全碁協(全日本囲碁協会)の打合せで8名が集まった。



2月12日(月祝)に菊池康郎理事長の米寿を祝う「まつり」を

開催するのだ。



打合せがおわり、お酒もいれながら第2ラウンドが始まった。



中心メンバーのUさんが笑顔で



「〇〇さん(女性メンバー)がね、私にすぐ怒る、って文句言うんだよ。

でもね。僕は自分が儲かるとか、得するとか、そういう話で

怒ってるわけじゃないんだよなぁ」



理事長がつづける。

「そうだよ。怒ってくれるというのは大事な存在なんだよ」



目の前にいる〇〇さんも笑顔でかえす。

「だっていつも怒られてばかりなんですー」



ここで思いだした。



―いつも自分の損得で怒る人

―いつも自分のこと以外で怒る人(自分の損得では怒らない人)



世の中には二種類の怒る人がいる。

Uさんはもちろん後者だ。



そして僕が友情を感じるシニアもいつも後者だった。



昨日は13回目の石音新年会で31名が集まった。



ネットで仕事をしながら毎回思う。

会うのは楽しい。



10年以上石音で楽しんでいる常連メンバー5人も、

みな80代
になってきているが元気そうだった。



ふだんネット上で見ている顔写真が10年前のままだから、

会うと自然と歳月を感じる。

そして今年もまた会えた喜びがこみあげる。



言葉にするのが難しいが

同年代の友人とは会う喜びの質が違う。



石音を始めてよかったと思う瞬間だ。



今回の琵琶湖の旅で、数日前から温めていたひとつの企画があった。

石音常連の住職にアポなしで訪問するというものだ。



もし会えたら昨夏、両親や弟家族、妹家族10名で京都西本願寺を

訪れた際以来の再会となる。
住職は西本願寺で33年勤務経験があって、

普段見ることができない国宝の能舞台や飛雲閣を案内してくださった。



ここ琵琶湖のそば、彦根の南にある報恩寺は、開基から400年以上の

歴史を持つ大きなお寺で、
住職はその11代目だ。



午後2時前に到着したがお寺には誰もいない。

隣の家の呼び鈴を鳴らすも反応がない。
残念だけど留守かな。

そう思ったときお堂のほうから声がした。



「やぁほんまに、ほんまに根本さんや。えらいこっちゃ」



笑顔いっぱいながら突然で驚いた様子だ。

また会えてよかった。僕もほっとした。



すぐにお堂の中に案内してくださった。

「そうや、ちょっとこっちに来て下さいな」



そこはお堂の奥にある、住職の“秘密基地”だった。

三畳ぐらいの小部屋の中央に石油ストーブがあり、

その上でやかんが蒸気を出している。



小さな机の上にはパソコンがあって、せっかくなので

私に石音の操作方法について聞きたいということだった。



「いまちょっとだけ5割を超えとるのですよ」



パソコンを立ち上げながら嬉しそうだ。

住職の現在の戦績は2336勝2298敗。

1局1時間、10年かけて積み上げてこられた。



パソコンの操作の簡単な説明をしたあと、

つれと一緒にこの秘密基地でしばし歓談した。



「それは世の中には色々な人がおるけど、会うべきひととは

会えるように出来とるのですわ」



偶然の再会をこう表現してくれた人は今までいなかった。

石油ストーブの間近で冷えた身体が暖まってきたが、心も熱くなった。



住職自らたててくださったお抹茶と手作りの羊羹を頂きながら、

僕はこの至極のひとときを過ごす幸運に感謝した。


2017/12/28

石に魅かれて


仕事柄、「石」という字を見ると脳が勝手に反応する。

親しみを感じる、に近い。



今回の旅で湖北では『石道寺』、湖南では『石山寺』

に足が向いたのも偶然ではないかもしれない。



石道寺では、薄化粧を施した初々しい女性のような観音様に出会った。

作家井上靖氏が、村の娘さんのようなと評しているのもうなずける。

唇が赤い観音様は初めてだ。




石山寺では、国宝の本堂の『源氏の間』にある紫式部像

まっさきに目を捉えた。

実際に紫式部は、この小さな部屋に
こもり源氏物語を書いたという。



ライバルの清少納言も『枕草子』の中で「寺は石山」と書いている。

この2人の女性は囲碁を愛したことでも有名で

どちらも有段の腕前だったといわれている。



2人が盤に向かい合って静かに石を打つ。

千年前のそんな光景を思い浮かべながら、いっときを過ごした。




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2017/12/15

Y君の石音


高校OB大会に毎回参加してくれたメンバーに中高同窓のY君がいた。



今から33年前、彼と僕は、他の部員よりも遅く囲碁部に入ったので、

既に有段者になっている
仲間を追いかける形でお互い切磋琢磨の日々だった。



中学3年、高校1年の2年間は「囲碁しか記憶にない」ぐらい没頭した。

そのかいあってか、高校3年の時に選手3人の1人に入れるかどうか

ギリギリの棋力にまで
到達した。



選手候補の高段者が20名を数える囲碁強豪校だったので

まず母校で選手になるのが大変だったのだ。



そしてリーグ戦の最終戦、最後の1席を争う形でY君と打つことになった。



結果は僕がギリギリの勝利を収めた。嬉しさと申し訳なさが同居する

不思議な気持ちを初めて味わった。
対局後の彼が予想以上に淡々と

していたので余計
印象に残った。



それから時が流れて、僕が石音を始めたことを知ると彼はすぐに

会員になってくれた。
仕事が忙しく常連メンバーとはならなかったが

毎年新年にじっくり2人で打つのが定例となった。

勝負は五分と五分で、勝ったほうはその年を気分よくスタートできた。



今から4年前のクリスマス、突然の一報に言葉を失った。

彼が酔ってホームから転落して亡くなったのだ。



数日前の、新年もまた打とうという確認メールのやりとりが、

まだ受信トレイのすぐ見れる場所に
残っている。

すぐには、彼とはもう打てない、という
事実を受け入れられなかった。



僕はその夜、石音から彼との棋譜を全て取り出して並べた。

そうしないと心のざわめきを押さえられなかった。



電子音だから全部同じ音のはずだが、やはり30年来の棋友である

Y君の石音は、
僕にはたしかに違って聞こえた。



来年の3月に、9回目の『全国高校囲碁OB選手権』

開催することが決まった。




大学のOB大会は色々あるが、高校のOB大会がないことに目をつけて、

僕が2006年に立ち上げた大会だ。


最近は2年に1度のペースで開催している。



この大会は、母校の囲碁部員OBが集まる同窓会とは違う。



高校時代に切磋琢磨したライバル高校同士、あの時を思いだしながら

7人一組、3人一組で闘う団体戦だ。

全国8高校、40名が集まる。




大学生や社会人になって間もない20代の若手から

60代のシニアまでが、母校の看板を背負う。

その日の囲碁サロンは、皆それぞれが高校生に戻る場所となる。



いままで何度も大会継続が危ぶまれたが、なんとか12年間続けてきた。

30年来の囲碁仲間が集う機会は他にはない。



僕は大会幹事としても、母校の監督としても選手としても

この大会を楽しむことができる
お得な立場だ。



これからもゆるく続けていきたい。



今日はおとなり将棋界が羽生永世七冠誕生で盛り上がっている。

ところで将棋と囲碁の違いを一言で、といわれたらどうするだろうか。



盤上のコマ(石)が動くのが将棋、動かないのが囲碁だ。

囲碁の石は、まるで時の流れのように一度打ったら取返しがつかない。



そして囲碁の強い人は、

「変えられない過去の一手」の価値を

「変えられる未来の一手」で
変えていくことが出来る。



輝く未来のために、過去を再認識、再構築していくゲーム。

僕はその囲碁から多くを学んで今日がある。


2017/12/03

石音新年会


僕の運営する『囲碁サイト石音』は、来年1月8日(月祝)

東京麹町のダイヤモンド囲碁サロンで
13回目となる石音新年会を開催する。



毎年40名が集まるこの会は、実は石音関係なく、

囲碁に興味のある人はどなたでも参加自由のゆるい囲碁会だ。



囲碁のルールだけ知る入門者から高段者までが集い、

その日のサロンは、
今年も楽しい囲碁ライフにしようという明るい「気」と

笑い声でいっぱいになる。




「はじめまして、じゃないですね。ネットでいつも打ってますから」

は石音ではお決まりの挨拶だ。



毎年成人の日に開催しているが、以前東京で数十年ぶりの大雪になった。

道は
普通に歩けないほど雪が積もり、交通は大混乱だった。



こういう日こそ家で炬燵にはいってネットで囲碁、石音の出番!

のはずなのだが、席亭の日頃の行いのせいなのか皮肉なものだ。



しかし、そんな大雪の日にもかかわらず、来なかった人が1名のみ

だったのには本当に驚いた。
シニアが半数をしめる囲碁会なのにだ。



83歳の男性メンバーは、寒さで顔を真っ赤にして1時間遅れで到着した。

「毎年楽しみにしてるからね」



必死に集まったみんなの笑顔は、いつもよりも楽しそうだった。

あの時の感激は今でもはっきり覚えている。



*囲碁サイト石音 http://www.ishioto.jp/

*石音新年会の問合せ・申し込みは sos@ishioto.com まで


2017/12/01

88歳の気概


僕が理事を務める(一社)全日本囲碁協会では

毎年2月の建国記念日に大会を開催している。



今日はその企画の打合せで中心メンバー、33歳から88歳まで

8名が集まった。
うち4名が80代だ。



来年2月12日は、今までの内容を一旦全部白紙に戻して

0から新しいものを
創りあげることになった。



過去を捨てる勇気。

変わろうとする気概。



年長者が率先して新しい、若々しい一手を打とうとする、

気迫溢れるこの打合せは、
これからもずっと僕の記憶に残るだろう。


 

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