2023/10/10
ひとつの旅で3度も自分の小ささを実感するのも珍しい。
1度目は、屋外五重塔では日本で1番小さな、
室生寺五重塔(国宝)の前で。(行き当たりばっかし31)
2度目は、木造では日本で1番大きな、長谷寺の
十一面観音菩薩立像(重文)の前で。(行き当たりばっかし32)
3度目は、東大寺の大仏殿につぎ日本で2番目に大きな木造建築
(明治以降の近代建築はのぞく)といわれる、
金峯山寺の蔵王堂「国宝」の前で。
高さ34mという。現代でいえばマンション9階建てなのに木造、
ということだ。縦横も36mの正方形、つまりほぼ立方体の
この建物が今から400年以上も前に、秀吉の力で建て直された。
中には68本もの巨木の柱があったが、驚くべきものを目にした。
どの木もすべて面どりも製材もされていない。
ただ木の枝を落としただけの、でこぼこだらけの杉やひのきの
巨木だった。こんなのは他の寺社であまり見たことがない。
仏教とはちがい、日本古来のオリジナルな宗教といえる修験道。
その整地にふさわしい建物だ。
なかには、ナシやツツジ(!)の巨木もあった。ツツジの巨木…。
自分が53年生きてつかんだ常識からは、余裕ではみ出している。
外に出て誰もいない蔵王堂の前で両手を広げてみた。
が、ぱっと見ると、蔵王堂だけを写したように見える写真だ。
自分の小ささがきわだった格好である。
いや、待てよ。
そもそも、自分をちょっとでも大きく見せようだとか、
はるか昔から風雪に耐え鎮座している塔や建物と比べようとか、
思うこと自体が、猛烈に小さいのではないか。
翌朝6時半、この蔵王堂で「朝勤行」に参加して
山伏たちの勇壮なほらがいの音を聞きながら、気がついた。
2023/10/10
前に集中すればするほど、後ろがおろそかになるぞ。
と仏様から諭された。
399段、長谷寺の重要文化財「登廊」(のぼりろう)の
誰もいない瞬間を撮った。まさか自分が撮られているとは。
お参りするのに長い階段を登るお寺は多いが、
こんなに長く屋根がついているのも珍しい。
何度か建て直されて現在残っているのは江戸時代と明治のもの
らしいが、この階段を千年前から大勢が登ったのは間違いない。
室生寺の700段往復をしたばかりで、少しバテ気味ながら
自分もその1人になったことに喜びを感じる。
登った先にある本堂(国宝)は徳川家光がつくったもので
長谷観音の根本像「十一面観音菩薩立像(重要文化財)」が
鎮座していた。背の高さが10mを超える大きさに圧倒された。
根本像というが、字だけ同じこちらの小ささがまたしても
浮かび上がることになった。
長谷寺 登廊
https://www.hasedera.or.jp/etc/noboriroh.html
2023/10/10
猛暑が一段落して秋の気配が近づく頃奈良を旅してきた。
朝5時に起きて7時発の新幹線に乗り、京都から近鉄特急で49分、
大和八木駅で降りて車を借りる。
昼前にはシーズンオフでひっそりとした名刹「室生寺」で、
屋外では日本一小さい(16.1m)国宝五重塔に向き合っていた。
午前中の過ごし方としては今年1番だ。
この塔は1200年前からここに立っているが、1998年の台風で
樹齢600年、高さ50mの巨杉が倒れて屋根が損壊した。
塔が出来て600年もたってから芽吹いた1本の杉が、
その後600年で塔の3倍もの大きさになり襲いかかったわけだ。
幸いなことに別の巨杉が倒れた杉を一部支えて全壊を免れ、
修復されて今の姿となっている。
人の手が加えられていない杉木立の中、奥の院まで700段の
階段を往復した。誰にも会わなかった。蒸し暑さがピークに達し
汗だくで降りてきて再度対面した塔と一緒にパシャリ。
遠近法で同じ大きさに写った。
20倍を超える年齢差もさることながら、その器の大きさを
もとより比べるべくもなく、かえって自らの小ささが目立つ
1枚となった。
2023/10/10
料理のよしあしは、その中身もさることながら、
誰といつ、どういう状況で食べるかによる。
これが映画にもあてはまることがよくわかった。
先日この10年で1番の映画に出会った。
『トップガン マーヴェリック』
は映画館で2回、DVDで5回観た。
これがあっさり更新だ。
『きっと、うまくいく』
2009年のインド映画。
これは2022年正月のNHK-BSで放送された。
友人が昔薦めていたなぁと思い出して、CMもないし
まぁいいかと軽い気持ちで予約した。
なぜいま観る気になったのか。
サイトを運営して18年2ヵ月、最大のピンチに陥っていた。
いままで2日以上止めたことがなかったが、今回5日以上に
わたりストップとなった。
1時間でも早く再開させたいが、自分が出来ることがあまりない。
待つのみだ。こういう時間は経つのが遅い。
他の事をしようにも、仕事はもちろん、読書、食事、睡眠をふくめ
能動的な動きが必要なものは、どれもなかなか集中できない。
あまり経験したことのない状況だ。
そこで、完全受け身になれるもの、映画を思いたった。
この「タイトル」に引き寄せられて深夜、再生ボタンを押した。
2時間51分。長めのはずが、あっという間に過ぎてくれた。
鑑賞後の気分は最高だった。ビフォーアフターでこんなに違うのか。
映画の冒頭、鍵となる日付が放送されるが、それがSEP.5。
僕が現実逃避でテレビの前に座ったのは9月5日。
行き当たりばったりも、時になんかの縁を生む。
ということかもしれない。
2023/10/10
大人の駄菓子屋
食の玉手箱
楽しい おいしい 身体にやさしい
看板にいつわりなしだ。
ワクワクがとまらない食の隠れ家的セレクトショップを見つけた。
吉祥寺の千恵蔵(ちえくら)さん。
またもや店主と話し込んだ結果、このお店は創業13年目。
サラリーマン時代、営業で全国各地をまわっているうちに
各地の美味しいものに出会い、自分が感激したもの「だけ」を
300点集めてお店にしたという。
どんなジャンルであれ、人であれ、場所であれ、この「熱量」
に魅かれてファンになる。
こちらが1品手にとるごとに、そのものの魅力、ここに並んだ
背景を丁寧に説明してくれる。
ふらっと立ち寄った最初の訪問のときは、気づくと買い物かごが
いっぱいですごい重さになった。8千円で送料無料、に魅かれ、
結局1万5千円の大人買いに。
先日、母の傘寿のお祝いにサプライズでこのお店から10点ほど
詰め合わせて贈った。
ふりかけるごま油、黒豆そうめん、ゆば丼、薬師延命酢…。
母のはずんだ声の電話が嬉しかった。
これからも年に3回は訪問する、にちがいない。
吉祥寺 千恵蔵さん
http://chiekurasan.wixsite.com/chiekurasan
2023/10/10
はい、わーさーび。パシャ
仲居さんに写真をとってもらうと必ずこの掛け声だ。
油断すると、ツンとした顔になってしまう。
53歳の誕生日をむかえた宿は、伊豆天城のそば、湯ヶ島温泉
にある老舗旅館、「白壁荘」だった。
天城産のワサビをふんだんに使う食事が圧巻だった。
ワサビ鍋。おろしをまぜてみぞれ鍋のようなところに、
すりおろしたばかりのワサビを大量に投入する。
出汁にとかすもよし。つみれなどにちょんとのっけて食すもよし。
おおぶりな見事なわさびが、あっという間に手をすってしまうほど
短くなった。ひとまわりこぶりのワサビがおかわりで出てくる。
ワサビのおかわりは初めてだ。
お造りはもちろん、和牛にも、ごはんにも、なんでもワサビだ。
朝食の時も1本。2人で3本まるまる頂いた。
ワサビは茎のほうからする、というのも今まで知らなかった。
確かに先端のほうが辛味が強いのがわかる。
いままで逆だったので気づかなかった。
この宿は名物の大岩風呂や巨木風呂がブラタモリで紹介されたり、
作家井上靖の定宿だったり、名曲「天城越え」がここで生まれたり
とエピソードには欠かないが、帰り道に頭をよぎるのは、やはり
「はい、わーさーび」だった。
わさびな一日を楽しんだ。
*伊豆湯ヶ島 白壁荘
https://www.shirakabeso.jp/
2023/10/10
よっこいしょ、と。
また一つ歳をとった。ここは三嶋大社の境内。
座るときに自然と声が出るようになったのはここ数年の現象だ。
記念日だから伊豆の帰りに三島でウナギでも食べて帰ろうか、
となってその前の腹ごなしにここにきた。
祭られている方には申し訳ないが、主がウナギで従が大社である。
ウナ従、という言葉がうかびすぐに消す。
前回三島にきたのは半年前、ひとりぶらりだった。
*行き当たりばっかし(5)
http://jotatsu-promise.com/ikiatari_5/
参拝のあと前回気づかなかった「石」があった。
座るのにちょうどよさそうだ。ではここで一休みしようか。
右に看板があった。あれっ座ってはいけなかったかな。
この石は頼朝が腰かけていた腰かけ石だった。
それを知ったとたん、だらけた顔を少しひきしめる。
目線をななめ上に天下を想う。
相変わらず中身がともなわない、53歳のスタートとなった。
2023/10/10
散歩の途中で出会って一番嬉しいのは「いいカフェ」だ。
異をとなえる人は少ないだろう。
自宅からまっすぐ歩くと20分ほど。散らして歩くと30分ほど
のところに、昭和の家を改造したカフェを見つけた。
「大人だってゆっくりおやつを」
言われると激しく共感するが、言われるまでその言葉はうかばない。
これが素敵なコンセプトの条件だと気づく。
店主に聞けばこのお店、2019年に神保町でオープンしたが、
2021年にここに移転してきたという。駅からかなり離れた
住宅街に都心からわざわざ引っ越してくる。こういう「非合理」な
選択に、なぜかひきつけられる。
「まじめな大人のかき氷」から完熟梅を頼んだ。
2種類のシロップが洒落ている。
―しまった。かけすぎた!
小学生のような嘆きのリアクションにつれは爆笑する。
めげずにあっという間に小さくなった氷にとりつく。
味はもちろんのこと、見た目からもあふれ出る涼を楽しむ。
そうだった。コンセプトは「大人」だ。
このお店、カフェでは珍しく席を選んで予約ができる。
はじめて見つけたときは余裕があったのではいることができた。
名物のプリンや豚まんもお薦めだ。
有馬屋おやつ店
https://select-type.com/p/arima_ya_ko_o_ri/
2023/10/10
物事はだいたい三番目で知っている人ががくんと減るらしい。
日本で三番目に高い山、三番目に大きい湖、三番目に長い川。
言える人は少ないだろう。僕も知らない。
東京で一番大きな神社はと聞かれたら、小考のすえ明治神宮と
正解をだせそうだ。二番目はなんとか靖国神社にたどりつくかも。
だが三番目はわからない。
それが散歩コースの中にあった。千年以上の歴史をもつ大宮八幡宮だ。
ここは杉並区にありながら飲める地下水をくみ上げている。
昔は湧水だったようだ。
夏は猛暑を避けて早朝6時頃から小1時間散歩することが多い。
お盆の時期は朝からセミの声がする。
神社の奥左に若宮八幡神社があった。
ひさしぶりにカブトムシに出会う。
そう、今は、夏休みだ。
大宮八幡宮
https://www.ohmiya-hachimangu.or.jp/
2023/10/10
西国分寺駅を降りて少し南下したあと国分寺方面に歩き出す。
20分ほどで別世界に着いた。
湧き水が小川となり、周囲は水が綺麗であることを示す草花が
目を楽しませる。
江戸時代に鷹狩が行われたというこの道は「お鷹の道」。
全長400mにも満たないが、その短い距離に野菜の直売場が
3つ4つある。湧き水の出ているところでは子供たちが裸足ではいり
ザリガニ釣りを楽しんでいる。初夏には蛍が飛び舞うそうだ。
都内、それも23区の西境から電車で15分ほどのところに
こんな道があるとは驚いてしまう。よく開発されずに残ったものだ。
直売所でもぎたてのビワや梅を買う。農家の人が直接売っているので
話を聞くのも楽しい。
途中、カフェに立ち寄った。地元野菜をつかったカレーがうまい。
前日たまたまテレビの散歩番組で見つけた小さな旅だった。
*史跡の駅「おたカフェ」
http://www.ota-cafe.com/