2023/10/10
―あら、浩宮様じゃない。
お袋の声で壁に貼られた何枚かの写真に目をやると
たしかに若かりし浩宮様、いまの天皇陛下が写っていた。
昭和49年と50年、まだ中学生の浩宮様は、2年続けて
この宿、増冨温泉「不老閣」の裏手にある2つの100名山、
瑞牆山と金峰山に登る前に1人で泊まったそうだ。
よくある皇室御用達の豪華な宿ではない。
23部屋のうち部屋にトイレがついているのは数部屋のみ。
あとは合宿所のように、トイレも歯磨きも共同だ。
宿の人に聞いて驚いた。当時泊まった部屋は207号室。
お袋と親父と妹の泊まる部屋だった。弱視の親父のために
トイレ付の部屋を押さえたのが奏功した。
―ここがそうなの。へぇ浩宮様がねぇ。
簡素な部屋の中でお袋がつぶやいた。
こういう偶然は帰宅後のいい土産話になるだろう。
小さい部屋からあぶれた僕は隣の206号室に1人。
ーそうか、ここはSPが泊まったのか。
これはそれほど土産話にはならないだろう。
2023/10/10
今回の旅では、「最高の親孝行」のカタチがひとつ見えたことが収穫だった。
物をプレゼントするよりも近年はなるべく一緒の時間を過ごすようにしている。
今回のツアーを選んだのは、お袋が足立美術館に行ってみたい、と長年言っていた
からだったが、何より3日間、ともにかけがえのない時間が過ごせたのはよかった。
思いのほか喜んでもらえたのは、
「昔話を訊く」
これが親孝行になるとは意外だった。
聞くではなく聴くでもなく訊く。
こちらから質問する、だ。
例えば自分が子供の頃の話。
親父の仕事の話。お袋が親父と結婚する前の話。
記憶とは面白いもので、ひとつきっかけがあると、次々に思いだす。
まるで大事にしまっておいた箱から宝物を取り出すように。
そのきっかけが「昔話を訊く」なのだ。
今まで一緒にいった旅行はツアーではなく僕が運転する車だった。
車の中での会話は1対1ではないからか、深い話になりにくい。
しかしツアーでは往復の新幹線など、隣同士の時間がたっぷりあった。
シニアは自慢話にならないよう気をつける癖がついている人も多いが、
こちらが聞いた質問に答える分には自慢にはならない。
親父に仕事の話をどんどん訊いていくと、時に嬉しそうな顔になった。
たくさん訊いて、その答えを聴く。
しっかり耳を傾ける。
これからも続けていこう。
動画「幸せの貯金箱」でこの内容を短くまとめています。
よかったら一度ご覧ください。
『最高の親孝行』
https://www.youtube.com/watch?v=ONOHT7m6Dvs
2021/04/22
2016/10/31の夕刊です。
この宇治に住む方が先日亡くなられました。87歳でした。
たまたまコラムが京都新聞で連載が始まったので、
「毎週金曜、近くの配達所に夕刊を買いにいくのが楽しみです」
と仰って、毎号切り抜いてスキャンしてメールをくださいました。
7年間、たくさんのことを教わり、頂き、交流を楽しみました。
Tさんありがとうございました。
2018/09/23
「明の撮影はカメラボタンではなく動画ボタンをおしているのが
たくさんあったわよ。ピントのあわせかたもいまいちね。
でも昨日は朝早くからありがとう。お父さんもよろこんでいたわ」
母からメッセージが届いた。
僕はもとよりガラケーだ。
スマホデビューしたての母に、上から目線の絶好機を
与えてしまったのが少し悔しい。
焦点はあってなかったかもしれないけど
笑点にはあえたでしょ。
こんな返しだと座布団一枚もらえるだろうか。
昨日、後楽園ホールで『笑点』を3人で観覧した。
当選倍率50倍を勝ち抜き、当日3時間半前から並んで
ダッシュしてとったアリーナ席だったが、父をつれて
ゆっくり入場してきた母が後方でさけぶ。
「こちらの席のほうがいいわよ」
たしかにパイプ椅子で平らな前方より、
やわらかいスタンド席前方のほうが、楽で見やすい。
おいおい、僕の3時間は何だったんだ。一瞬頭をよぎったが、
すぐ気持ちをきりかえてガラガラの後方に陣取る。
普段の放送は半分ぐらいカットされているのがわかった。
いつもより長い大喜利2本分も、笑っていたらあっという間だった。
「一生に一度は見る価値があるな」
帰り際、父らしい感想があった。
好みの焦点はあっていたようだ。
2018/09/09
9月22日に『笑点』の収録が後楽園ホールである。
2年ほど前から、毎回というわけではなく、思い出した頃に
観覧応募ハガキを10枚送っている。今回で三度目だ。
挑戦しているのには理由がある。
第一に、プレゼントのネタがなくなってきた。
毎年やってくる父の日や誕生日。弟や妹からのものとも、
自分があげた過去のものとも、かぶりを避けるのが難しくなってきた。
第二に、軽く驚かせたい。
偶然の産物は、自分の意思で買えるものとは違って、
少し違った色に見えるはずだ。
第三に、毎週見ている。
眼が悪くなっている父だが、仮によく見えなくても
馴染みのあるものであれば、音や雰囲気で楽しめるだろう。
当選したら収録2週間前までにハガキがくるという。
どうやら今回も今までと同じ結果になりそうだが、
あまり力まず出し続けていれば、いつかきっと。
2018/08/24
あやうく忘れるところだった。20時少し前に電話した。
まだ寝るには少し早いはずだ。
「いよいよ節目の歳に突入したね。おめでとう」
「あら、遅いわね。朝から“グーグルハングアウト”で
3人は連絡してきたわよ」
この夏、妹に手とり足とり教わって、スカイプに続く
もう一つの武器を手にした母は、ちょっと得意げに
その名を口にした。
長めのカタカナを正確に言えたのには驚いた。
先日も焼肉鉄板の新兵器「ザイグルボーイ」を数日間、
「ザイール、ザイール」と連呼していた。
3人とはアメリカに住む妹とその娘たちだ。
「Hanaちゃんがね、
『おばあちゃん誕生日おめでとう。75歳に見えない、35歳に見えるよ』
といってきたのよ。だからね、
『あらかわいいわね。ありがとう』
と返事しておいたわ」
女性の歳を40も下に言うのは、日米通じてなかなか
お目にかかれないが、それを真に受けるのはさらに珍しい。
今度Hanaに会ったら、そういう時は10歳ぐらい下を言うもんだよと
「日本の常識」を教えておこう。母の矯正はもう手遅れだが。
うちは昔、夏の最後が「バースデーウィーク」だった。
母の誕生日の5日後が僕でその翌日が妹、と5人家族のうち3人が
1週間に入っている。
昨年の僕の誕生日のことだ。
母から電話はあったのだが、いつものマシンガントークで
自分の近況報告と僕の健康伺いを済ませたらそのまま電話がきれた。
軽くずっこけた。
翌日妹に指摘されて気づいたのだろう。
2日続けて電話があった。
「あらあなた、昨日誕生日だったのね。おめでとう」
そんな1年前のことを1mmも覚えていない母は、今年、
「当日」に電話した僕に第一声、「遅いわね」と言った。
来年の夏の終わりがまた楽しみだ。
2018/06/25
2月から毎月開催しているセミナーが
6月から中野区後援となった。
20万部発行の区報の効果もあったようだ。
いままで10名弱だったが、今回は40代から80代まで
20名ほどが集まった。
記事を見つけた奥様に背中を押されてきた77歳の方。
区内で総合インテリアを営む60代の経営者。
シニアの紹介業に興味のある40代のキャリアコンサルタント。
懇親会で目を輝かせて未来を語るシニアの力が、近い将来、
実際に企業の力になって活きる。
小さな記事から小さな一歩が始まった。
2018/06/22
親父にずっと会わせたかった人がいた。
週6日スポーツクラブのプールで歩いているらしく、
足腰の心配は当面なさそうだが、初めてのところを独りでは
やはり不安だ。
一昨年、緑内障の手術をして以来、何とか踏みとどまってはいるが、
先日もうちのマンションのホールで、柱に激突してしまった。
床と柱の色が白っぽく似ていた。
「父の日」のおかげでプレゼンターの顔ができたが、
梅雨の晴れ間に一緒に歩いたひと時は
実は自分へのプレゼントだった。
2018/04/17
―これは預かっておいてほしいんだ。
まぁあげることになるとは思うけど。
先日頂いた全集と一緒に我が家に到着したのは
桐の箱に入った本榧四寸盤と碁石。
40年ほど前に、Kさんが坂田栄男二十三世本因坊の奥様から
頂いたものだという逸品だ。
久しぶりに外気に触れるのだろう。
箱をあけるとふわっと榧の香りが部屋にひろがった。
木が深呼吸して喜んでいるようだ。
いま家づくりの真っ最中だが、来年2月、新居の和室で
存在感を示してくれるにちがいない。
自宅で開く小さな囲碁教室でも活躍してくれるだろう。
―ずっと、大事に預からせて頂きます。
2018/04/09
―ちょっと悪いんだけどさ、車で取りにきてくれないかな。
今朝10時すぎに久しぶりにKさんから電話があった。
当ブログでも何度か紹介した、同じ会社の囲碁部だった79歳の方だ。
最近2,3カ月に一度、ランチに誘って頂いている。
間もなく一軒家を売ってマンションに引越すため、
かさばる本と碁盤を取りにきてほしいという。
Kさんの家に行くのは2度目だ。
車を飛ばして昼まえに到着すると、既に縁側に段ボールが2箱、
庭のなつみかんがいっぱいはいった紙袋が2袋と、
古い桐の箱にはいった碁盤と碁石が置いてあった。
―この本はね、売らないでずっと持っていてくれそうな人に渡そうと思ってたんだ。
全巻個人で持っている人はあまりいないと思うよ。
もちろん一生大事にします。ありがとうございます。
37年前発刊の『現代囲碁大系』全47巻が47歳の僕の本棚に揃った。