• ホーム
  •  > 
  • 500人の笑顔を支える、ネット碁席亭日記

根本席亭ブログ 500人の笑顔を支える、ネット碁席亭日記 囲碁の上達方法やイベント情報など、日々の出来事を発信していきます。


PXL_20230302_043550289-300x225



詩をそれほど親しんできたわけでもない身でもこれは覚えていた。



小諸なる古城のほとり

雲白く遊子悲しむ



3月2日木曜日。東京では20℃の声が聞こえたというのに、

懐古園では時折日差しもありながら小雪も舞っていた。



懐古園の奥にある展望台からの眺めは、おそらく島崎藤村が

ここであの「千曲川旅情の歌」を詠んだと思わせる力があった。



別所温泉で2泊したあと、初めて小諸にきた。藤村ゆかりの地

ということは知っていた。広大な小諸城の跡地である懐古園には

シーズンオフの寒い平日とあって人影がほとんどなかった。



園内散策で1時間、藤村記念館でたっぷり1時間、

今年一番の贅沢な2時間となった。



藤村にとってここ小諸での6年間は、教員をしながら、

詩人から小説家に転身するターニングポイントとなったという。



藤村は自分のことを遊子(旅人)と詠んだ。

同じく旅人として訪れた僕にとっても、この小さな行き当たりが

ひょっとして何か大きな意味を持つかもしれない。



ふとそんな思いがよぎった。



PXL_20230301_054004187-300x225



よく考えると「ご利益」という響きは、学問の神様以来、社会人からは

あまり縁がない。神社やお寺でたまに買うお守りは、つれの強い薦めか、

訪問記念として手に入れた。



しかしこれは違った。

はじめて見るタイプのものに一瞬で心を奪われた。

国宝「八角三重塔」の屋根の古材を使ったお守りだ。

地味ながら中身にふさわしい袋と木の釘もついている。



60年に一度のふきかえの際に出たものを使っている。

長い間風雪に耐えた材は、あちこちガタがきはじめた

こちらの耐久性までアップしてくれるにちがいない。



いや、ご利益云々より持っているだけで嬉しい気持ちになる。

それはそうだ。何しろ「国宝」を毎日持ち歩くわけなのだから。



安楽寺3-225x300



「国宝」に興味を持つようになって8年が経った。



現在会ったことがあるのは120個ほど。

全部で1130件なので、まだ1割少々だ。

これからゆっくり楽しめるが、ひとつマイルールがある。



「なるべく現地で会うこと」



仏像や絵、器などは、本来飾られていた場所ではなく、まとめて

東京国立博物館などで展示されているものも多い。

「国宝展」にいけば一気に数がかせげるが、それは面白くない。

あまり出歩けなくなる人生の終盤にとっておこうと思う。



その点、現地で会うしかない、神社仏閣やお城など建造物の国宝は

全国に228件あるが、一番のターゲットだ。



信州の鎌倉、といわれる別所温泉、安楽寺にやってきた。

松茸や栗で有名なので、3月上旬は完全にシーズンオフだ。

12室ある旅館も貸し切りだった。



ここに数年前から気になっていた塔があった。

国内現存する唯一の八角形の塔、「国宝八角三重塔」だ。



それは境内の一番奥、少し登った先の窪地にひっそり佇んでいた。

拝観料が別途必要なエリアながら、だれにも会わず静かな対面だ。



感激を口にしようも誰もそばにおらず、のみこむしかない。

それがかえって印象を強く残しそうだ。



そんな予感がするひと時だった。



三嶋大社金木犀-300x225



白隠さんに会ったあと沼津に一泊して翌朝、三島にむかった。

午後には熱海でつれと待ち合わせがある。それまでの時間、さてどうしよう、

と地図を眺めていてふらっと寄ったのだ。



ここまで50余年、ねらうとはずす、ねらわないといいことがある、

という人生を送ってきたので、予感はしていた。

こういう時に思わぬ発見がある。



駅で地図を手にいれてさっそく歩きだした。すぐにわかった。

散歩をしていて楽しい町、というのはこういう町だ。



三島は遠い昔、富士山の噴火で溶岩が流れてきた先端に位置する。

毛細血管のように張り巡らされた溶岩の隙間には、富士からの水が

流れ込み、いたるところで湧水となっている。



町中を流れる小川、というより用水路に近いが、どれも水が澄んでいて

そのそばを歩くのが楽しくなる。コガモの親子が次々に目にはいる。

多くの文豪がそれぞれの著書で三島を絶賛してきたようだ。それぞれが

説明書きの看板となって小川のそばに立っている。



気づくと三嶋大社の前に出た。事前の知識がないままここもふらっとはいる。

すぐに目に飛び込んできたのが、「三嶋大社の金木犀」だ。

樹齢1200年とあって驚いた。巨木の面影はまったくない。

樹高も幹回りも普通の木だ。枝は何本もの柱でようやく支えられている。

根元のほうをみると、7割がた欠けていて、枯れ木と言われても驚かない。

なんとも頼りない。しかしこれが年に2度も満開となるという。



大きな町の用水路といえば、ふつうのぞきこみたくなる感じではない。

樹齢千年を超える木といえば、巨樹、大木と決まっている。



そんな「常識」が大きく壊されたとき、それは、行き当たりばったり旅の

醍醐味をかみしめるときでもあった。



PXL_20230121_040451333-225x300



今回ばかりはちょっと「計画」したくなった。



はじめて2年を過ぎたウクレレ、年末の課題曲は「イマジン」だった。

この曲を調べていて驚いた。ジョンは江戸時代の禅僧、白隠に私淑していて、

その言葉「南無地獄大菩薩」から想起してこの曲ができたというのだ。



彼はこんな言葉を残している。

「僕にとって最高の詩は俳句であり、最も優れた絵画は禅画だ」



白隠の絵は好きで数年前に展覧会に足を運んだこともあるが、

まさかよちよち歩きの自分のウクレレにつながるとは、

想定外からもはみでている。これはもう、会いにいくしかない。

白隠に、である。



1月中旬、3年ぶりの囲碁合宿が行われた湯河原の先には沼津がある。

その2駅先、原という駅のそばにある松蔭寺、そこに白隠は眠っている。



原宿、といえば渋谷のそばを思い浮かべるかもしれないが、

東海道の「原」宿、は松蔭寺のすぐそばだ。



平日の正午すぎ、境内には誰一人おらず、物音もしない。

静かな対面となった。



事前にしっかり計画したという点で、当欄にはふさわしくない

かもしれないが、僕にとって大事なウクレレとぶらり旅、

この2つが「偶然コラボ」したというのは確かなことだ。


 

PAGE TOP