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2023/10/10

行き当たりばっかし(11)


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市井の人、という言い方がある。

昔中国で井戸のそばには市ができた、ということから、庶民の意味となった。



今から120年もここで井戸端会議が行われていたことだろう。

この井戸のすぐそばで7年間暮らした文豪、島崎藤村は、毎日早朝にここで

顔を洗うのが日課だったという。冬子夫人もここで洗濯や水汲みをしながら

近所の人との交流を深めた。



小説家への転身をめざして初の長編小説「破戒」の執筆に燃えていた藤村は、

ここでどんな未来を夢想したのだろう。



建物はすぐ古くなり、主がいなくなるとそれは生活の匂いもなくなり、やがて

記念館となる。だが井戸は自然とつながる連結器だからか、

不思議と古さを感じない。今も清らかな水を汲みだせそうだ。



そして、散歩からもどってきて手を洗う藤村がとなりに立っている、

そんな気もするのだ。


 

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