2017/10/10
『男はつらいよ』の寅さんは、結婚するとか冗談を飛ばすたびに
本気で信じてしまう身内を、「シャレが通じないなぁ」と嘆いたものだ。
僕はいつも身内に対して冗談ばかり言ってるのがまずいのか、
「本気が通じないなぁ」と逆である。
しかし一歩外に出ると、いつもの冗談?が通じなかったことを想いだす。
ある暑い夏の日、家の玄関前で、新調したばかりのサングラスが
胸ポケットからなくなっているのに気がついた。
どこかで落としたのかなと道を探しに戻るも見つからない。
仕方がないので近くの交番で遺失物届けを出した。
「えっとどんなサングラス?特徴は?」
メモをとりながらお巡りさんは聞く。
「ポリスです」
「えーとポリスね、はい」
(何だよ、スルーかぁ)
新調したサングラスはお気に入りのブランド「ポリス」だった。
あの時の完全スルーは忘れない。
もう一つ。
昨夏、人生初の入院・手術を経験した。
手術前の検査入院のとき、全身麻酔の耐性を見るのか肺活量を測った。
たぶん人生初の測定だ。
結果は6,300ccもあった。
僕の身長体重から割り出す標準の140%。
念のため2度測定したお医者さんは言った。
「すごいねー。年間で7千人ぐらい見てるけど10人いるかどうかの
肺活量ですよ。あなたお仕事か趣味で激しくスポーツしてるでしょ」
「いえ、どちらも囲碁です」
「…。あっそう。では検査はこれでおしまいです」
(なんだ、スルーかよ)
シャレは通じたほうがいいのか、通じないほうがいいのか
いまだ答えは出ていない。
2017/10/09
今日はシニア(87歳)の自宅で囲碁指導だった。
もう教え続けて9年目。局後の検討のとき、シニアが思わず言った。
「毎回毎回、同じこと言われ続けてもいっこうにいい手が
打てないなんて、やんなっちゃうなぁ」
「ひょっとして先生の教え方に問題があるんじゃないですかー」
付き合いが長いとこういう軽口も飛び出る。
隣で真剣に検討の様子を見守っていた奥様が爆笑している。
「あらこの人ったら、そんなことまで人のせいにね。やぁねー」
人のせいにする‥といったらそれは根本家の専売特許のようなものだ。
もちろん威張れたことではない。
父はいつも、
「お母さんはすぐに人のせいにするからそういうときは無視しなさい」
と言う。
たしかに、オレオレ詐欺にひっかかったときも、
真似された弟のせいにしていたのには
お腹がねじれそうになったのを覚えている。
先日久しぶりにあった姪っ子(弟の次女4歳)は
「おうちのね。トマトがね。枯れちゃったの」
「えっどうしたの?」
「水あげなかったから」
「どうして?」
「だってパパが教えてくれないんだもん」
こんなところにも引き継がれている。
そんな上から目線で評する僕も、家ではよく色々なことを妻のせいにする。
それを指摘されると反撃もパターンがきまっている。
「だって俺がすぐ人のせいにするのは、母ゆずりだから仕方がないんだ」
2017/10/08
2年前、初めて本を書くにあたって
「読ませる文章はどう書くか」の答えを日々探していた。
そんな折、シンプルで素晴らしい言葉に出会った。
「名文よりも明文」
続いてこうあった。
「難しいことを易しく
易しいことを面白く
面白いことを深く書く」
まさに明文。
これをずっと大事にしたい。
2017/10/07
囲碁普及に燃えるシニアに会った。
その方は自宅で囲碁教室も開いている。
老舗碁盤店や碁石店にカラー碁石や
センスのいい皮の碁盤を作らせていた。
自分でも鹿の皮をなめした碁石袋や
それを入れる漆塗りの紙箱なども創っていた。
囲碁は19路だと大きくて、碁石碁盤もイメージが渋すぎるから
とっつきにくい、と力説していた。
その通りの面はあると思う。
今までこういった、女性に人気が出そうな小さくてお洒落な碁盤や
碁石をたくさん見てきた。
しかし売れ続けているものは一つもない。
それで碁が広まったという話も聞かない。
理由は単純だ。
「やらない理由を解決しても、やる理由にはならない」
からだ。
普及にもっていくには
「やる理由をつくった上で、ほんのスパイス的にやらない理由の解決を使う」
しかない。
最難関の「やる理由」に力の98%を傾ける必要があるのだ。
これが出来そうでなかなか出来ない。
気づきそうでなかなか気づけない。
2017/10/06
「今日のお茶おいしいね」
ある朝、何気なく言った一言に妻が驚きの目を見開いた。
「えっわかるの?」
「うんわかるよ。いつもよりお茶おいしい」
「本当?お茶おいしいなんて今まで言ったことなかったのに…」
昨日までポットで沸かしていたお湯を、今朝から南部鉄瓶で沸かすように
変えたらしい。しかしお茶はずっと同じまま。だから彼女は驚いたのだ。
「やっぱりな。俺はお湯の味がわかる男だからな」
半ば偶然の産物なのに、調子にのっていばり始めるのが底が浅い。
しかしまてよ。何気ない一言が自然に出たのは確かだ。
やはり俺は神の舌をもっているのかな。
数日後、妻が朝から不敵な笑みを浮かべていた。
「今朝はお湯は昨日と同じ鉄瓶で沸かしたけどお茶を変えてみたのよ。
あなたお湯の味はわかっても、お茶の味はわからないのね」