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根本席亭ブログ 500人の笑顔を支える、ネット碁席亭日記 囲碁の上達方法やイベント情報など、日々の出来事を発信していきます。


真に熱い人が冷静に語るとき、伝わるものがある。



こんな真理を感じる人もいるだろう。

錦織の活躍で、最近松岡修造のテニス解説を聞く機会が増えた。



しかしあの修造が愛弟子、錦織の試合を解説するとき

「熱くない」のである。




修造といえば、オリンピック中継やスポーツ解説で笑っちゃうぐらい熱いので有名だ。

CMで「テニスやってたんですか」とネタにされるほど、いまやテニス界というより

スポーツ界全体の応援団長として活躍している。



その彼が本業のテニスの解説の時「熱くない」のである。



しかしその熱くない解説が、とてもいいのである。

なぜいいのか。次の3点から見て取れる。



1. 空気を読まない解説

2. リスペクトのある解説

3. オフのある解説



1. 空気を読まない解説



「今日の相手とは圭ははっきり言って分が悪い」



試合前の修造の発言に驚いた人も多いだろう。

サッカーワールドカップの日本戦で、あの熱狂的な試合前の雰囲気で

「今日の日本は負けるかもしれません」

と言う勇気があった解説者がいただろうか。



当然修造は、視聴者全員が錦織を応援していることを知っている。

そして自分も圭の勝利を日本一願っている応援団長であることも自覚している。

そこでいつもの通り「勝てる、お前ならやれる!」を出すことも出来ただろう。



しかし彼は自分を抑えた。テニスのプロとして、そして解説のプロとして、

空気に飲まれずに、空気を読まずに冷静にコメントした。

意表をつくこの言葉から始まった彼の解説を、

視聴者は信頼感を持って聴くことが出来たに違いない。



プロ野球の試合で解説者が、打者が空振りしたあと

「今日の〇〇投手は球が切れてますねー。調子がよさそうです。」と言う。

しかし視聴者からすれば、空振りの前にこのコメントが欲しいのだ。

仮に打たれても、球が切れていればそうと、調子がよければそうと解説してほしいのだ。



修造の解説は一球一球、結果ポイントにつながったかとは関係なく発信されている。

「圭の今のショットは相手が取れなかったですが、これを続けると危ないです。」

「圭の今のリターンはネットにかかりましたが、これでいいのです。続けるべきなのです。」



空気を読まず流されず。冷静な発信の継続が視聴者に大きな説得力を与えている。



2.リスペクトのある解説



「圭は僕の師匠なんです。」

この言葉、何回聞いただろう。修造が錦織の試合を解説するたびに発信されている。



修造もテニス日本一を10年守った男である。

日本の個人スポーツで10年トップを張り続けた人が何人いるだろう。

その彼が、20歳以上年下の錦織を、公共の場で「師匠」と言う。

「僕は精神面しか教えられませんでした。テニスを教えてはいけなかったのです。

それぐらい才能は飛び抜けていました。」



これを小学生の錦織に感じて実行出来た修造が、凄いと思う。

どんな分野でも解説者は通常、プレーヤーと同等かそれ以上の実績、格のある人が

選ばれる。その場合、解説者が意図してなくても、その発言、発信が、

所謂「上から目線」になってしまいがちである。



選手に対するリスペクトがベースにある解説は、聴く側に安心と信頼をもたらしている。

そして聴いていて気持ちがいいのだ。



3.オフのある解説



「解説をしないという解説」

雄弁で熱い松岡修造ならではの武器なのかもしれない。



修造の解説には、はっきり「オンとオフ」がある。

オフとは「何もしゃべらない時間」のことである。

何もしゃべらないというのは、言葉につまってとか、しゃべり疲れてというものではない。

意図してしゃべらないのである。



今までワンポイントずつコメントしてきたのに

急に数ゲーム連続で無言になるのである。

「ここは黙っていますので観ててください」と言ってから黙るのではない。

何も言わず前ぶれなく急に「ただ黙る」のだ。



修造が誰よりもテニスを愛するからこそ伝わる、沈黙の力。

オフのある解説は、ずっとオンの解説よりも力がある。






誰よりも熱い男、松岡修造。

その彼が熱さを捨てた時、3つの点から解説の質が格段にアップした。

そして試合後のインタビュー。

錦織に対して16秒間、修造は無言で拍手し続けた。画面に修造は映らず錦織のまま。

これは放送事故か。

いや、試合後にまた、あの熱い男が戻ってきた瞬間だった。


 

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