「もう誰も癌のこと言わないのよね」
伯母がぽつりと呟いたのが耳に残っている。
都立病院の緩和ケア病棟に入って1ヶ月半。
今日は2度目のお見舞いに母と一緒に訪ねた。
ここは末期がんの方だけが22名入っているフロアで、
他のフロアと比べて時間と空気がゆっくり流れている。
母と伯母は、今日もいつもと変わらず株の話や選挙の話で
盛り上がっていた。
残り時間がそう長くないのは本人もわかっている。
そんな中、どうお見舞いしていいのかわからない。
そばで話すひとときを、かわした会話を、
大事に心にしまうしかないのだろう。