2017/12/30
それは道の奥にひっそりとたたずんでいた。
よく来たね。今日はあなたたちが初めてだよ。
そんな声が聞こえてきた。
さきほどまでの曇り空は知らぬまにどこかにいって、
ちょうど陽光が降り注いできたからかもしれない。
湖南から近江八幡への道すがら、信号待ちの際に
道ばたの小さな看板に目がとまった。
―国宝大笹原神社500m
ん?国宝!?
この2文字に目がない僕は慌ててハンドルを右にきった。
ガイドブックは3冊、隅々まで目を通したが
ここに国宝があるとの情報はない。
半信半疑のまま、県道から脇道に車をゆっくり走らせる。
ほどなく森の中に小さな駐車場があらわれた。車は1台もなかった。
車を降りて鳥居をくぐった瞬間、つれが声をあげた。
足先から「びびっと」きたらしい。
説明をみると『須佐之男命』とある。厳しい神様だ。
僕らは誰もいない境内にはいった。
室町時代からたたずむ本殿は、囲いがあって近くまで寄れないが、
欄間や側面にほどこされた彫刻の見事さを双眼鏡で楽しんだ。
神聖さや絢爛豪華さ、荘厳さとも違う、
いままで出会ったなかで一番静かで素朴な国宝だ。
信号で止まらなければ生涯ここに来ることはなかっただろう。
そんな幸運に出会えるのも旅の醍醐味の一つだ。