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2015/02/21

掘り炬燵


高尾の2つ前、京王線めじろ台駅。半年ぶりだ。

息が白い。都心の気温より5℃低い。



ここに降りた時から、それは始まっている。

実家まで徒歩5分。その5分で時間がどんどん、さかのぼる。

僕のために、少し大き目に造られた玄関の扉を開ける。



「あらお帰り。お茶淹れてあげるから、炬燵で暖まりなさい。」



毎日ここに住んでいるかのようだ。

あれから20年。ここでは僕は、息子のままだ。



数年前から指定席が「上席」、テレビの正面に変わった。

立ったり座ったりが億劫になったのだろう。

親父があまり座らなくなった。

席が良くなって、少し寂しくなることもあるのか。



そしてお袋は買い物に、親父は散歩に出かけた。



木製の大きな置時計。針の音が今日は大きく聞こえる。

冬の光が縁側の鉢植えを、優しく照らしている。



いま一人お茶の時間。ここで起きた「事件」が蘇る。





16年前の大晦日。

妹が作ったデザートの杏仁豆腐。

慣れないキッチンで砂糖と塩を間違えたらしい。前代未聞の味。

その衝撃の余韻が冷めやらぬ時だった。



「この人と結婚したい」



突然、彼女が1枚の写真を出してきた。

僕より5歳年上、192cm。青い目の大きな「弟」候補。

先週初めて会ったばかりだと言う。

家族は皆、そこからあの日の紅白の記憶がない。





自称六段の弟と、『兄弟3番勝負』。

正月の恒例行事だった。そして5級の親父が毎度の台詞。



「そんなところに打つのか。

お前たちはまだ何も分かってないな。」



「ほんとそうだねー。」



僕ら2人は盤面から目を逸らさない。

高段者は手抜きの技を知っている。



この光景、弟に娘が出来てここ数年はおあずけ。

少し残念だ。





就職、転職、結婚、起業、離婚・・。



僕の全てを見てきた、唯一の場所。

時間が戻った気になる、一番の場所。





ところで、夏のお気に入りの場所はどこなんですか?



そうか。その手があったかー。

それは夏にまた話しましょう。


 

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