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2023/10/10

行き当たりばっかし(15)


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―もうここでいい。



親父に言われてびっくりした。

リフトを降りてすぐのところに小さなベンチがあった。

そこに座って妹と僕が観光してくるのを待つというのだ。



―どうせ牛のいない牧場みたいなもんだろ。



先日実家(東京八王子市)のそばにある牧場(磯沼ファーム)に

連れていったのが記憶に新しい。が、それはいくらなんでも山陰を

代表する名所、鳥取砂丘に失礼というものだ。



弱視で障害者2級の親父にしてみれば、雄大な砂丘がしっかりは

見えないかもしれない。だが、このベンチからでは、近所の公園の

砂場とちがわない。



―3分、100mだけ歩こう。ちょっとだから、ね、いっしょに。



妹とともに何とか両親を説得してベンチから立ち上がらせて

砂丘の入り口、高さ10mほどの小さな砂の山を登る。

白杖代わりのステッキが砂に埋もれてちょっと歩きづらそうだ。

ゆっくり一歩。また一歩。



―おおっ!



なんとか登りきると一気に視界が開けて思わず声が出た。

東西どこまでも砂丘がつらなり、向こうには日本海が輝いている。

家族4人、ここにきたのは皆はじめてだった。



記念に僕は思いっきり手を伸ばして4人の自撮りに挑戦した。

腕をプルプルさせながら撮ろうとすると、意味なくお袋が

僕のスマホにむけて手を振る。笑わせないでほしい。



目の前には大砂丘、「馬の背」がそびえる。

高さ47m、斜度32度、15階のビルぐらいある砂の山だ。

せっかくなので妹と一緒に走って登ることにした。



2歳年上のハンデからか、こちらが先に息をきらし途中で

止まった。妹が頂上からこちらにスマホをむける。

ちょっと大げさに「達成感」を表してみた。よく考えると

まだ達成はしていない。



―あの子はむかしっからなんでも大げさなのよ。



ベンチで待つお袋の声が聞こえた気がした。


 

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